掲載禁止 撮影現場

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「心臓の弱い方」はご注意ください ※ネタバレあり

不気味な廃墟で言い合いをする二人の男の衝撃的結末「例の支店」、自分が犯人だと自首してきた男を問い詰めていくなかで進行する奇妙な議論「哲学的ゾンビの殺人」、カリスマ映画監督の作品に出演した役者が見た、とんでもない光景「撮影現場」、仕掛けが冴える著者の真骨頂特別書下ろし「カガヤワタルの恋人」……。
怖いのに、読むのが止められない傑作八編。
心臓の弱い方は、ご注意ください。

新潮社より

最近本を買ってないなぁ、と思い、ふらりと書店に入ったところ新刊コーナーに平積みされていた一冊。
ミステリー小説も好きだが、どんでん返し系の、所謂叙述トリックとか使われている作品も好きな為、帯に書いてあった「驚愕のどんでん返しミステリー全8編!」に釣られて購入した。
どんでん返し系なのにキャッチコピー的にはホラー要素もあるのか、と思いながら読み進めていった。

例の支店

本の紹介ページにも載っている短編。
霊能力者の力を持っている者と、新進気鋭のフリージャーナリスト二人を主軸に物語が展開されていく。
今まで見てきた心霊写真というのはどういうものなのか。
そのトリックや霊能力者という存在について様々な情報を提示するフリージャーナリスト。
それに対し、警察関係者しか知らない情報を開示していくことで応えていく霊能力者。
二人の言い合いは互いにヒートしていき、そしてついに・・・。
というところで、あれ?その視点は・・・?もしかして・・・となった作品。
その描写が出来るのは、そう幽霊だけ。
第三者からの描写をうまく利用した作品だなって感じました。
何度か「もしかしてこうなんじゃ・・・?」と思ったところはあったものの、その予想はことごとく外れていくのは読んでいてちょっと恥ずかしかったです。
ぐいっと物語というか、本書に惹きこむには丁度良い感じに仕上がっているように感じられました。
こんな感じの作品ですよ、といったような。
途中で

「その前に一つ、君に質問する。生きているとはどういうことだ?」

という問いかけで、ふーむと少し考え込んでしまった部分がある。
確かに生きている、ということを自覚していても、それを定義するのは難しいな、と感じた。
けどそこからの怒涛の展開が心地よかった。

ルレの風に吹かれて

行方不明となった友人の足跡を辿って見つけた「国」。
小さな小さな国で、見つけた友人。
エリート街道まっしぐらで、恋人もいたはずなのにどうして?と不審がる主人公。
とりあえずそんなに良い国ならば、と少しの好奇心で滞在を試みる。
意外にもあっさり現地の人々に受け入れられ、過酷な環境下ではあるものの日々を過ごしていく。
そんな中で一人の女性に惹かれ、結婚しそこに住んでいくことへ。
きっと主人公も失踪者扱いされているだろうな、と思いながらも大切な家族がいるから、ということでその国からは離れる気がない。
それでもいまいちもう一押しに欠けているというか、どうして友人がそんなにも固執するほどこの国が良いのか分からずにいたが、友人の妻が亡くなって数日後にそれを知ってしまう。
一緒になること、真実の愛を神様から認められた事による実態。

カニバリズムの人達で構成された国でした、というのがオチ。
けど惨殺な描写はあまりなく(体感)、純愛の果てにか・・・と腑に落ちてしまった。
愛しい人を食べる事によって、永遠に一緒にいる。
文字通り血肉となって一緒になるのだ。
カニバリズムの人を題材にした小説はあれど、このような形で描かれるのは少ないんじゃないのかな、と思う。
最後主人公がどうなってしまったのかは想像にお任せするような形ではあったけれども、きっと私は主人公が四肢欠損してベッドに横たわっているんじゃないかと思っている。
友人の妻の元を訪れた時と似たような描写があることから、そう考えているのだけれども、他に考察の余地はあると思う。

哲学的ゾンビの殺人

哲学的ゾンビとは

外見は人間と変わりはしないが、内面的経験、すなわちクオリアを欠いているもののことをいう

クオリアとは

客観的には観察できない意識の主観的な性質のこと。感覚質ともいう。
例えば、青い空を見た時の感覚や、冷たい水を飲んだときの感じとか。
洗い立てのカッターシャツを着たときの感覚とか。

ビルの敷地内に捨てられた男性の遺体。
自分が殺した、といって自首してきた森、という男性。
彼は被害者のことを、哲学的ゾンビだったから、という理由で殺した。

哲学的ゾンビの殺人の話の中に出てくる用語は本文より抜粋させていただいた。
結構哲学的な問題提議が多く、うーんと頭を悩ませる場面がいくつかあったし、混乱もした。
その際は一旦落ち着いて読み直す事でなんとなくは理解できたものの、完全に理解した、とは言いづらい。
トロッコ問題は自分が知っていた内容だったけれど、誰が何のために考えたものなのか、といった内容までは知らなかったので、勉強になるなぁ、と思って読んでいた。

多分冒頭に捨てられた男性の遺体は、森のものだと思う。
森が殺した人は、左手に白い紙を持たされていたのにもかかわらず、森の右手に白い紙を持たせていたからである。
そして登場人物の二人こそ哲学的ゾンビのことではないか、とも思うのだ。
一瞬刑事かと思いきや、ただの哲学的ゾンビであって、普通の人間を殺して哲学的ゾンビの数を増やしているのではないか、と思う。
そう思うのが

「でもこういうときに、洗い立てのシャツに着替えると、どんな感じがするのでしょうか」

という一文からである。
冒頭の部分が鑑識や刑事の場面があるため、この二人も刑事だと誤認しやすいのがミスリードのところかな、と思う。

この閉鎖感漂う世界で起きた

貧富の差を嘆き、現代社会の闇の部分に触れた作品。
住む場所もなければ食べる物にも困っている主人公隅田が、ガラス戸が開いている家を見つけ出来心で泥棒をしてしまう。
そんな中家の人に見付かり、あわやここまでと思った隅田だったが、婦人を盾に強盗を決意。
120万もの大金を持って退散しようとするが、婦人が引き留めて一泊させてもらうことに。
この老夫婦は二人で邸宅に住んでおり、一人の愛娘が行方不明になっているとのこと。
所謂上級国民と呼ばれている人でも、自分では到底考えられない苦労や困難にぶつかっていることを知る隅田。
そんな人もいるのに、つい魔が差して強盗を行ってしまった自分を恥じ、心機一転、新しい道を歩もうと決意する隅田。

と思いきや、本当は閑静な住宅街に起こっていた通り魔の犯人が、実は老夫婦の愛娘だった、というオチ。
そしてその愛娘は邸宅に住んでおり、深夜隅田のことを殺そうとしたこと。
寡黙でかたくなに「この家から出て行け」という主人が、必死に隅田が家で殺されないように気を使っていたこと。
婦人が隅田の服を洗濯した際に、ポケットに通り魔の犯人であるという自供メモを忍び込ませたこと。
去り際に隅田へ渡した弁当の中には毒が入っているということ。

主人のことが怪しいな、何か隠しているな、と思って読んではいたが、まさか愛娘を家で匿っているとは思いもしなかった。
老夫婦は愛娘が失踪したふりをずっとしていたというのも衝撃的で、そんな裏があるとは・・・となった。
タイトルの「閉鎖感漂う世界」というのは日本全体のことを示している文章があったが、実際のところ一つの家族のことであったとはな、あっぱれである。

イップスの殺し屋

ターゲットを殺すために雇われた殺し屋だったが、殺害する寸前でイップス状態に陥ってしまう。
任務遂行できなかった殺し屋だけれども、翌朝見たらターゲットが殺されていた。
一体誰がターゲットを殺したのか・・・。

殺し屋の心情も交えながら進んでいくストーリー。
短いながらも探偵役がうまいこと話を進めていく感じが面白かった。
また誰が殺し屋なのか、誰がターゲットを殺したのか。
それを自分の中で整理しながら読んでいく楽しさがあった。

撮影現場

本の表題にもなっている作品。
アザマ監督という有名な映画監督の下に抜擢された、しがない役者である飯島。
有名な監督の作品に出られるということで、ここで頑張らなければいけない、と奮闘するものの、撮影現場となっている島についてからは台詞すらなければ、監督から声をかけられることもない。
アザマ監督はリアルを追及するあまり、本来演技でいい場面、例えば殴られるようなシーンでも実際に殴り殴られのようなシーンを撮ったのだ。
それでも頑張って演技を続けるものの、殺害現場の撮影時に見た死体。
本物の死体だと確信した飯島は島から脱出しようと模索するが・・・。

まさか監督が入れ替わっているとは思いもしなかったし、ちゃんと映画の主人公になりたい、といった飯島の願望を叶えてくれるとは。
表題になっているのですごく期待してしまったが、ちょっと違うかなぁ、という感じが拭えなかった。
どちらかといえば「この閉鎖感漂う世界で起きた」の方が面白かったかな、と個人的には思う。

リヨンとリヲン

読了

読んでいて思ったのは、全体的にきちんと文章を読んでいれば”オチ”の納得はできるかな、といったところでした。
本作にはどんでん返し、というよりかは「あー、なるほどな?」といったようなニュアンスに近いオチかな、と思います。
どんでん返しというには少し弱いかな・・・みたいな感じで、でもこういうのもアリ、みたいな感じです。
にしても感想を書こうとしたら大体ネタバレになりそうなので、基本的にしたくないのですが開き直ってネタバレありにしました。
そっちのほうが書きやすいかな、と思ったのと、画像があるのでネタバレ回避したい人はタイトルだけで回避出来るだろう、と思っています。
心臓の弱い方はご注意下さい、とあったけれども、さほどそこまでホラー要素はなかったかな、と思います。


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